バスタオルの下
「その前にシャワー浴びさせて、掃除してたから汗とホコリまみれなの」
触れ合っていた唇を離した由美子に見つめられると、裕之は柄にもなくドキドキした。
由美子を待つあいだ、氷の溶けたアイスコーヒーを飲みながら、裕之はまるで初めてのときみたいに緊張している自分に気づいた。
(先週、ここで由美子さんを一方的にイかせたときは余裕があったのに、今日はおかしい)
一週間経ったら、立場が逆転しているような事態にとまどっている。
(ひょっとして俺、由美子さんのこと好きになったのかな。里沙よりも、今までの誰よりも、好きになったのかなあ)
「裕之君は?」
いつのまにか戻ってきた由美子はバスタオルを身体に巻きつけただけで、ボディソープの花の香りを漂わせている。
「俺は、今朝、シャワー浴びたから、いいですか?」
「ふふっ、いいわよ。こっち、きて……」
手を引かれて寝室に入ると意外にもシングルベッドがふたつ並んでいる。
「こっちよ」
ピンクのカバーが掛かったベッドに並んで座る。
「夫は、ひとりじゃないと眠れないの。私のベッドに寝たことはないのよ」
(営みするときは由美子さんがあっちのベッドに行くってことかな?)
「裕之君、どうかした?」
「ううん、なんでもないです。ダブルベッドじゃないから意外だっただけで」
「まさか、夫と寝るベッドで、できないでしょう」
「うん、俺も、そう思います」
「うふっ」
(由美子さんの笑顔、かわいいなあ。なんだか、このまますぐにしちゃうの、もったいないかも……)
シャワーを浴びた由美子の身体からいい匂いがしている。
ボディソープの甘い花の香りは、由美子自身の花芯の匂いに似ていると裕之は思った。
実際に、今、由美子のそこに触れれば、甘い蜜が溢れているのを確かめられるのかもしれない。
だけど裕之はそうしなかった。
バスタオルの下の熟れた身体を味わうには自分は緊張しすぎている。
こういうときにこんなに緊張したのは、童貞を失ったとき以来だ。
このままだと由美子にリードされることになってしまいそうだった。
(こんなふうじゃなくて、先週みたいに俺に翻弄される由美子さんのかわいい姿がみたいんだよ)