16.紺色のワンピース
「あっ、エアコンの修理にきたみたい。行かなくちゃ」
「えっ……」
「ごめんね、由美子さん。今日はありがとう」
あっさり、由美子から離れて勉強道具をまとめて帰って行く裕之の後姿を見送りながら、由美子は呆然としていた。
立っていても足に力が入らないし、両足の間はまだドクンドクンと脈打っている。
(私、これから、どうしたらいいの?)
(あれから一週間か。由美子さん、どうしてるかな)
本当は、次の日に訪ねて行くつもりでいたのに、先週はずっと母親のところに泊まることになってしまった。
連絡することもできないで、あれっきりになってしまったことを由美子はどう思っているだろう。
裕之はこの一週間ほとんど由美子のことばかり考えて過ごしていた。
年上の女性と付き合ったことがあるといっても、今までの裕之の相手は高校生か大学生だった。
由美子みたいな大人の女性の考えていることは裕之にとっては謎だ。
(里沙の考えてることだったら、すぐわかるんだけどなあ)
受験が終わるまで会わないって自分のほうから言ったくせに、里沙は毎日電話してくる。
会えないんだから電話ぐらいいいでしょ。
自分勝手な理屈を言って、甘えてくるところが、かわいいとは思っているんだけど。
母親の家にいるって言ってるのに、テレフォン営みさせられたときには本当に困った。
自分だけスッキリした里沙に、「これから家庭教師の先生がくるから、またね」とあっさり電話を切られた。
そのあと、裕之は由美子のことを考えてひとりで抜いてしまった。
(由美子さんも、少しは俺のこと考えてくれてるかな。土日は、ここに戻ってきてたけど、うちの親父も由美子さんのダンナさんもいるから、話かけることもできなくてつらかった)
父親が仕事にでかけたあと、すぐに図書館に行くのが日課になっているけど、今日は月曜で図書館は休み。
家で勉強しようと思っても、隣りに由美子がいると思うと勉強が手につかない。
窓を開けてベランダ越しに隣りを見ると、そこにはたくさんの洗濯物が風に揺れている。
(あっ、あの紺色のワンピース、先週由美子さんが着ていた服だ)
裕之の頭の中に、先週見た由美子の身体の一部が鮮明に浮かび上がってくる。
指で触れた感触も、舌で味わったときの柔らかさと匂いも、恥ずかしそうにしながらエクスタシーに達したときの由美子の声も、すべてが今、目の前にあるみたいに感じられる。
裕之はめまいがするほどの強烈な甘いうずきを下半身に感じて、あわてて窓を閉めた。