証拠隠滅
二十代後半になっていても、子供を産んだことのない由美子の身体は線が崩れてなくて無駄な贅肉がほとんどついてない。
痩せているわけじゃなく、まだ胸の肉も落ちていないし、尻も垂れてない。
バスタオルで身体の水滴を拭きながら、洗面台の鏡に映った自分の身体を見ると、いつも由美子は思うのだった。
(妊娠したら、この身体が変わってしまうんだわ。それでもいいから子供が欲しい。二十代のうちに産めるかしら)
ガチャ……。
リビングに続くドアノブが回って、裕之が顔を出す。
「ご、ごめんなさい。トイレに行こうと思って」
急いでドアを閉めようとする裕之の慌てぶりに由美子は笑みがもれた。
「いいのよ、トイレどうぞ」
裕之がトイレに入っているあいだに、身体にバスタオルを巻きつけて寝室に行く。
今日はどこへも出かける予定がないので、部屋着のストンとしたワンピースを着る。
ちょっと厚地のTシャツくらいのコットン素材で、紺地に白の縁取りがしてあるシンプルなデザインのものだ。
過剰な装飾のものは由美子の好みではない。
素材がよく、身につけていて気持ちのいい服が好きなのだった。
「裕之君も、ひと休みしたら?コーヒーはアイスとホットどっちがいいかしら」
「由美子さんは、どっちにするんですか」
「クーラー効いてるから、ホットがいいかな」
「じゃあ、俺も」
「お昼にはまだ時間があるから、さっきのメロン食べちゃおうか」
「うん、証拠隠滅?」
(女の子が欲しいと思ってたけど、男の子もかわいくていいな)
「由美子さん、仕事やめたんですか」
「そうよ」
「どうして?あっ、聞いちゃいけなかったかな」
「いいわよ。子供が欲しいから」
「えっ、子供できたんですか」
「ううん、これからよ」
裕之がけげんそうな顔をする。
「大人にはいろいろ事情があるのよ」
「俺の母親は、仕事始めたら家を出て行っちゃいました」
「そうだったの」