下着泥棒
集合住宅の狭い玄関の外に出ると、ズラッと横一列にドアが並んでいる。
ここは由美子の夫が勤める会社の社宅で、かなり古い建物だ。
右隣は夫と同期入社の係長一家が住んでいる。
幼稚園に通う子供と赤ん坊がいて、奥さんは子育てに忙しそうだけど、今まで由美子が仕事をしていたので付き合いはほとんどない。
左隣は夫の上司でもある課長一家が住んでいるはずだった。
中学生の男の子がひとりいる。
(だけど、最近、奥さんを見かけないのよね。パートにでも行くようになったのかしら)
徒歩で道路に出ようとしていると、そこで立ち話をしていた三人の主婦のうちのひとりが由美子に声をかけた。
「奥さんも気をつけたほうがいいわよ。
最近、下着がよく盗まれるんだから」
「えっ、洗濯物がですか?」
「そうよ、値段の高いものに限って盗られるんだから、まったくいやよねえ」
(値段のことよりも、自分の下着を人に触られることのほうが気持ち悪くていやだわ)
「気をつけます」
適当に挨拶して、その場を立ち去った。
(それにしても、こんな社宅でも下着が盗まれたりするのね。うちは三階だから大丈夫だと思うけど)
駅ビルに立ち寄った由美子は、ちょっとのぞいてみるだけのつもりだったランジェリーショップで買い物をしてしまった。
総レースのブラジャーとパンティとガータベルトのセット。
黒と白のどっちにしようか、さんざん迷って白にした。
夫はたぶん白のほうが好きだろうと思ったからだ。
(買ってしまったけれど、こんな下着、いつ着たらいいのかしら)
子供を作ると決めて由美子が専業主婦になってから、夫は律儀に毎週末ごとに夜の勤めを果たしてくれる。
(こんな下着を身に着けていたら、あの人、びっくりするでしょうね)
結局、由美子はそれを身につけることなくタンスの奥にしまったのだった。
「あっ……」
夫の指が割れ目をなぞると、由美子は小さな声を洩らした。
優しく何度もそこを往復する夫の指がしだいに湿り気を帯びてくる。
人差し指の先が中に入り込んでくる感触に思わず膝を閉じようとしたが、夫の身体が由美子の両脚の間にあるために閉じることができない。
両膝を立てて開いている姿は恥ずかしかった。
こんなところを見られて触られていることも、相手が夫なのに由美子は毎回恥ずかしい思いをするのだった。
寝室の灯りをギリギリまで暗くしてあることでなんとか耐えられる。
もしも、部屋がもっと明るかったりしたら、たとえ夫であってもこんな姿を見られたくない。
「あぁ……ん……」
浅く入ったり出たりする指の動きに反応して、膣の中からトロリと蜜液が溢れてきたのを感じた由美子が身をよじる。
それを合図に夫は由美子の中から指を抜いた。
夫の営みのしかたは毎回同じ手順どおりだけど、由美子はそれを不満に思ってはいない。
結婚前を入れれば、もう六年、互いに同じ相手とだけ営みしている。
お互いに一番気持ちのいいやり方に落ちついたということだと思っている。
夫が由美子の中に入ってこようとするとき、由美子はいつも夫のペニスに触れる。
充分に硬くなっているかどうか確かめるように右手で根元から先端までを軽く撫で上げてから、根元に手を添えるのだ。
由美子がそうすると、夫のペニスは少し大きくなり硬度も増す。
そして、導くように自分の膣口へペニスの先端をあてがう。
そこから先は夫まかせだった。
入ってきた夫は途中で止まることなく、そのままゆっくりした速度で根元まですっかり由美子の中に入ってしまってから動きを止める。
「はあっ……あぁ……」
由美子は夫の背中に両手を回して、子供をあやすように優しくその背中を撫でた。
「あっ……あっ……」
夫が腰を振ってペニスを出し入れし始めると、由美子の口から絶え間なく小さな喘ぎが洩れる。
「ゆみこ……」
いつものように妻の名前を呼んで果てた夫の頭を胸に抱えて優しく髪を撫でた。
激しくはないけれど、愛情のこもった優しい営みに由美子は満足していた。